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影を追わないこと

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先日、会社の先輩に僕が1on1をする機会を頂いた。社外では高校生から会社経営者まで様々な方との1on1を経験しているが、社内での経験値はまだ少ない。同じ文化や似たような環境を経験として共有しているぶん、相手の話に自己を投影しやすい。そういった場合に僕は相当のバイアスを持って相手の話題を扇動してしまうことを自己認識している。その意味で今回の1on1を引き受けることは、僕にとって挑戦の一つに数えられた。

先輩の話を聞いていると、その話題の随所に自分の影を見る。決して自分と同じ状況でないと分かっていながら、思考の癖も助長して一つ、また一つと影が立ち上がる。それらを払拭しながら語りに集中する。語りの文構造から、その人の思考の癖やアウトプットする際のフィルターのかけ方を分析する。目の前の先輩は自分が他者に抱いた期待値を先に提示してから現状の値を整理し、その差分を「悩み」と結論づけていた。自分の生き方を語るときにも、主軸となる価値観を先に説明してから、その価値観と現状自分が導出している結果との相克に気を揉んでいることを告白していた。

僕は先輩に、思考の癖を仮説として提案した。仮説の立ち上げやベンチマークの設定がしっかりとなされているが故に、最初に何を仮説とするか、何をベンチマークにしたかが成果に大きく影響すると。実践と省察のサイクルはある程度身体化されているようだが、かえってそれが自分の思考の輪廻から解脱できなくなる要因にもなっているようであると。

先輩は満足してくれたようで、どうやら本人的にも僕のフィードバックで整理された部分があったそうだ。これを機に行動変容を試み、進捗を次月また報告してくれることになった。終電間際まで酒を飲み、興奮覚めやらぬうちに別れて各々の帰路についた。その瞬間、1on1のときに払拭したはずの影達がふっと現れ、僕に微笑んでから先輩の後をつけていった。他者のうちに自己を見出す、いつだってそうだ。語りの中からその人の思いがけない一面を目撃したときだって、振り向いた顔が自分とそっくりであることにぞっとする。

帰り道、僕は一人でやりたくもない答え合わせをおこなった。先輩のどこに自分を投影したのか。数をどんなにこなしても、この答え合わせにだけは慣れない。