使った皿は捨てればいいかもしれない。こんなことを言って、またしても僕は周囲から「見たらまずいもの」を見るかのような視線を向けられた。使った皿は、洗ったりしないで捨てればいい。そして、次に使うときは新しい皿を使えばいい。そのサイクルが途切れないように、新しい皿を用意しておけばいい。言えば言うほど周りは白目。あと一言加えたら、危うく泡を吹いて倒れる人がいたかもしれない。
奇をてらっているのではない。とっても真面目な提案だ。もともとは「皿洗いをどう分担して行うか」について話し合っていた。パートナーができて一緒に暮らすことになったとして、その人と続くかどうか、その人と長く一緒にいることになっても大丈夫かどうかを判定するためにどこを見ているか、というよくある話題の一つとして出てきた。話題の大枠の時点でいろいろとツッコミたいことはあったけれど、そこからツッコミはじめると即全員泡吹き必至と思い、皿洗いに話が進んでから意見を言った。
[A]皿洗いはしないと皿がたまっていくから誰かがしないといけないんだけど、それが結構大変で。
[B]わかる、そういうことって、最初にちゃんと役割分担しておかないと疲れたときとかにケンカのもとになったりする。
[C]まあ、そもそも役割分担とか明確にしなくても、お互い察したりすることができれば、改めて確認とかはしなくてもどうにかなると思うけどね。
[B]いやー、そうなんだけど、それは結構理想形じゃん?てか、そういう人ほしい。
[A](笑)Bがそういう人に巡り会えることを願いつつ、実際問題、なんだかんだで役割分担は確かに最初に確認しておくの大事。
[C]変な感じだけどね、パートナーと役割分担について整理するとか。
[僕]そもそも、使ったあとの皿は洗わなきゃいけないという前提を変えちゃうのはどう?使ったあとの皿はそのまま捨てて、新しい皿を使うとか。
[A&B&C]…え?
[B]それ、超お金かかりそうだし、環境にもよくないんじゃない?知らないけど。
[C]ほんとそれ。
[A]究極の選択(笑)。
[僕](まずい、いつもみたいに完全にヤバい奴認定された。でもここはもう少しだけ…)いや、その、話し合いの前提をね、変えてみるのはどうかなっていう。
[A&B&C]…(硬直した笑顔でこちらを見ている)
[僕](ええい、もうどうにでもなれ!)いや、確かに皿は洗って再利用するっていうのは一般的だと思う。でも、一般的なだけで、絶対にそうしなければならないというわけではないじゃん?で、もし自分とパートナーの二人ともが皿を洗うことに乗り気じゃないのであれば、乗り気じゃないものを無理くり二人でどうにかするより、それをしなくても済む方法を考えるっていうのはどうかなって。で、だとしたら、その、皿洗いの場合で言えば、皿を洗うの自体をやめても、例えば紙皿とかなら使ったら捨てて使ったら捨てて、でどうにかなるかなとか。あとはもうとにかく外食とか買った弁当にするとか。
[C]いや、確かにそうやってやろうと思えばできるとは思うけど、資源もお金も無駄遣いじゃない?
[B]毎日ピクニック状態(笑)
[僕]もし無駄だと思うなら、別の方法を考えるか、そこの時点で皿洗いって必要だねってなって、じゃあ二人で分担しようかってなるんじゃないかな、という。
[A]だったら結局最初から分担でいいじゃん?そのなんか遠回りなくだり、いる?
[僕]遠回りに見える人もいるけど、僕はこういうやりとりを経ての決定のほうが納得できるし、やる気とかも沸くタイプだから、付き合ってくれたらすごくありがたい。
[B]…わお。
[C]なんか、学者さんとお話ししているみたい(笑)。
[A&B&C](全員で笑う)
[僕](良かった、なんとかこのままやり過ごせそう…)確かに、僕ちょっとヘンだよね。
[C]いや、だいぶね。
と、こんな感じである(実際にあったやり取りをもとに再構成、内容が伝わりやすいように誇張と省略をした創作です)。僕が学んだのは、慣習や不文律を無批判に内化することの恐ろしさだった。と、同時に、こういう局面で僕にできることは、「世の中にはこんなヘンな奴もいるんだぜ、どうする?」ということの提示に過ぎないということも知った。今回は皿洗いという平和な内容であったが、この「〈X:皿〉は〈Y:洗うべき〉だ」のXとYに入るものによっては、とても恐ろしい慣習や不文律を無批判的に支持し、その暴力性に加担してしまうことになる。それは嫌だなあ、気を付けたい。