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スリッパとか乾燥とか

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昨日の夜、喉が乾いて起きた。床が冷たいから肉厚なスリッパを履いて冷蔵庫へ。ベッドから足を下ろして爪先でスリッパを探す。電気をつけると目が眩むので暗いまま。当たったほうの足でそのスリッパを履く。両足履けて立ち上がる。違和感。左右が逆だ。両親指に詰まる感じ、小指の隣に空間。履き替えるのが面倒なのでそのまま階段を降りようとして何度も落ちそうになる。あれ、こんなに難しかったっけ。


もうほとんど冬。というか秋は終わったか。秋の途中くらいから乾燥が酷い。手やら顔やらがパリパリになって擦れると気持ち悪い。自分の皮膚とは思えないザラザラ感、実際には聞こえないガサガサという音が耳にこだまする感じ。不快、以上。


子供の頃は親に靴を入れ替えてもらうまで気付かなかった。左右。自分で履くぶんには違和感が全く無く、小学校の上履きなんて無法地帯だった。周りからは「気持ち悪くないの?」とか「転びそうになるでしょう?」とか言われたけど、別の世界の文化だと思っていた。僕にそんな感覚は無かった。いつだろう、左右の足が決別したのは。


乾燥だって未知だった。外遊びから帰ってきたときの手の汚れも同じ。「そんなに汚れてて、気持ち悪くないの?」と言われても、そうやって手を洗わせたいだけでしょ、なんとも思わないぜ、という感じだった。皮膚上で起こってることはほとんど僕の感覚の範疇に無く、外傷くらいしか違和感にならなかった。外皮の皆さん、いつからそんな繊細になったのですか。


多分だけど大学生あたりから。乾燥ってもしかしてこのカサカサ感かな、とか、靴が逆だと指が痛い、とか。いや、靴が逆なのはもう少し前から違和感あったか。でも中学か高校くらいまでは全然分からなかった、はず。


味はどんどん鈍感になっているのにね。食べられなかったトマト、今ではほとんど何とも思わない。絶対に食べられないし近寄りたくなかったパクチーだって、ふたくちくらいは食べられる。中学生の頃に口にしたときは寝るまで味が忘れられなくて半日損した気分になったのに。好き嫌いは多いほうだと思っていたのに、みるみる食べられるようになっていく。


「あなたはいつ大人になりましたか?」っていう質問。真面目に社会的自立のタイミングとかを考えていたけど、そんなんじゃなかった。僕が大人を実感できたのは、今のところ両足と外皮と味蕾のおかげだった。すごくつまらないけれど、凄まじく納得のいくタイミング。